第25代総長 松本 紘
本日から始まった「文化とコンピューティング」国际会议に参加された皆様方に、京都大学を代表し歓迎の意を表したく存じます。先程は、情报学研究科长から「情报学シンポジウム」の説明がありましたので、私は、文化とコンピューティングとの関わりを几つかに分类して、多様なイベントからなる「文化とコンピューティング国际会议」全体を横断的に概観したいと思います。
文化とコンピューティングの関わりの第一は、情报学の成果を用いて文化财をデジタル化して保存する活动でしょう。この后にお话しになる国会図书馆长の长尾真先生のご讲演に加え、本学の松山隆司教授による无形文化财のアーカイブ、龙谷大学古典籍デジタルアーカイブ研究センター冈田至弘(よしひろ)先生による障壁画や绢本?古文书の復元に関わるご研究、京都デジタルアーカイブ事业の二条城二の丸御殿障壁画のデジタル画像などが展示されています。
文化とコンピューティングの第二の関わりは、情報学が人文学を広く支える活動で「デジタル?ヒューマニティーズ」と呼ばれています。コンピューティングはその生い立ちから科学技術計算を中心に用いられ、物理、化学、生命科学、医学、農学など、広い範囲の自然科学に貢献してきました。昨今のヒューマンインタフェースの進歩、Webによる情報共有の仕組みによって、ようやく人文学に貢献する段階にまで来たのでしょう。この国際会議では、立命館大学グローバルCOE「日本文化デジタル?ヒューマニティーズ拠点」の赤間亮(りょう)先生と英国Leeds(リーズ)大学名誉教授のEllis Tinios(エリス?ティニオス)先生のジョイントトークが本日行われます。情報処理学会 人文科学とコンピュータ研究会、大蔵経テキストデータベース研究会などの研究会も開催されます。また、本学文学研究科林晋教授のグループによる歴史学のための文献資料研究ツールも展示されています。
文化とコンピューティングの第叁の関わりは、コンピューティングを用いて新たな文化を生み出す活动です。いままで定量化できなかった文化の本质を、インタラクティブに表现する手法は「カルチュラルコンピューティング」と呼ばれ、本学の土佐尚子教授が推进しています。シンガポール国立大学の中津良平先生とのジョイントトークも予定されています。兴味深いのは、明日のパネル「京都の职人?神主とのカルチュラルコンピューティング」で、京都嵐山吉兆総料理长の徳冈邦夫さんを始め、様々な才能をお持ちの方々と情报学の研究者との対话が予定されています。また、市民団体である京都仏教文化フォーラムは、京都府の助成を受けて、シンポジウム「仏教文化とコンピューティング」を计画されています。仏教文化にイノベーションを起こそうとする宗派を超えた僧侣の皆さまによるシンポジウムは、京都大学の研究者の発想をも超えるもので魅力を感じます。
文化とコンピューティングの第四の関わりは、コンピューティングの世界に新たに生まれつつある文化に関するものです。明日の湯浅太一教授の基調講演は、ソフトウェアに内在する文化についてのものですし、その後に予定されているジョイントトーク「Webメディアとeカルチャ」では、本学の田中克己教授と欧州のWebアーカイブの代表であるJulien Masanes(ジュリアン マサネス)博士がWebによって生まれる新たな文化を紹介します。
文化とコンピューティングの第五の関わりは、多文化共生に寄与する活動です。今日、予定されているジョイントトーク「異文化コラボレーション」では、米国のLewis Johnson(ルイス ジョンソン)博士による3次元仮想空間での異文化体験と、本学の石田亨教授によって開発中のインターネット上の多言語基盤「言語グリッド」が紹介されます。 ところでJohnson博士は自らも15言語を話されるそうですので、まさに異文化コミュニケーションのプロであると言えるでしょう。また、電子情報通信学会の研究会でも「言語グリッドと異文化コラボレーション」が議論されています。
ところで、本日、狈笔翱法人「多文化共生センターきょうと」がシンポジウム「医疗の多言语支援」を実施されていますが、狈笔翱と大学の协力関係も进んでいるようです。この狈笔翱は、外国人が京都市内の病院で诊察を受けるときに、ボランティア通訳を派遣されています。年间に1,300回以上出动するとのことです。通訳不足を解消しようと、和歌山大学の吉野孝准教授や言语グリッドチームの协力を得て、多言语の病院受付システムを开発されました。现在、京都市立病院や京都大学医学部附属病院にも试験的に导入されています。こうした努力が评価され、平成21年度バリアフリー?ユニバーサルデザイン推进功労者表彰を首相官邸で受けられました。狈笔翱と大学の协力が実を结び始めている証左でしょう。
このように、本国际会议は、京都大学、立命馆大学の教员、研究者を中心に企画されましたが、学会や市民団体の参加を得るなどの広がりを见せています。また、国际会议を机に、こうした连携を持続するための奥别产上の研究所「文化とコンピューティングバーチャルラボ」の展示も行われています。このバーチャルラボは、情报学研究科と财団法人京都高度技术研究所、京都リサーチパーク株式会社が共同で开発しています。この2日间、会议に参加された皆様方の交流により様々な连携が生まれ、新しい研究と活动が育っていくことを期待します。