第25代総長 松本 紘
ご列席の歴代総长、名誉教授、役員、部局長、ならびに教職員の皆様、新年あけましておめでとうございます。皆様それぞれに良いお正月をお過ごしのことと思います。
さて、本年の干支は「壬辰(みずのえ?たつ)」です。昨年は东日本大震灾にみまわれ、我が国は大きな试练に直面しました。今年の干支の十干の「壬(みずのえ)」は草木の内部に新しい芽が生まれることをあらわし、十二支の「辰(たつ)」は阳気の初め、草木の成长をあらわします。従って、干支の示すとおり大灾害から立ち直り、力强く、新しい日本として前进する年となることを愿っています。
60年前の1952年壬辰(みずのえ?たつ)の年には、手塚治虫の鉄腕アトムの连载が始まり、硬货式の公众电话が街角に出现しました。また、アメリカが初めて水爆実験を行ったのはこの年です。トヨタ自动车の创始者豊田喜一郎氏やスペースサイエンスの基础となる地球电磁気学を拓いた田中舘爱橘先生がご他界され、时代が大きく动いた年でもありました。
さらに60年前の壬辰(みずのえ?たつ)の年、1892年には世界で初の営业用の水力発电所として、京都の蹴上発电所が电力事业の本格的営业を始めています。新しいことは京都から、と言われた伟业でした。
さて、本日は、新しい年を迎え、京都大学の概算要求の结果ならびに昨年の主な出来事と今年の计画について少しお时间を顶戴し、お话をさせていただきたいと思います。
まず决まったばかりの平成24年度运営费交付金については、昨今の财政状况の厳しい中、国立大学法人全体では、対前年度0.9%に当たる105亿円减の1兆1,423亿円となっております。
京都大学としては、大学运営の基盘的経费となる一般运営费交付金が6亿円の减。特别経费の増や授业料免除枠の拡大分への措置额の増などで2.8亿円の増。全体としては3.2亿円减の565.2亿円となっており、毎年予算额が减るという厳しい状况に変わりありません。
一方で、国立大学の改革や机能强化を推进するための新たな补助金として、「国立大学改革强化推进事业」138亿円が予算计上されています。これは、社会から国立大学の改革の促进が强く求められている背景のもと、大学改革を加速化させるための补助金です。具体的には、「教育の质の保証と个性?特色の明确化」という项目で、(1)教育审査を伴う学部?研究科の改组(2)双方向の留学拡大のための抜本的制度改革が挙げられ、「大学运営の高度化」の项目として、(1)効率的な大学运営のための事务処理等の共同化(2)大学情报の一元管理と适切な活用による运営体制の强化などが予算化されています。
あわせて、平成24年度施设整备费関係の予算案の本学にかかる状况としては、医学部附属病院1期病栋と防灾研究所流域灾害研究拠点施设の新営、原子炉実験所と宇治キャンパスのライフライン再生、耐震补强および机能改修4事业の新规事业と笔贵滨事业等の継続事业として6事业の合计14事业がとりあげられています。
これら新规事业の事业费総额は约143亿円であり、平成24年度の配分额は新规?継続事业を含めて约88亿円となっています。昨年の补正予算による前倒し分を入れると103亿円となり、全国の大学の中でも群を抜いて整备が进むと言ってよく、概算要求にあたっての本学の関係者の努力に深く感谢したいと思います。
次に、昨年1年を振り返ってみたいと思います。昨年も様々なことがありました。特徴的な事柄を六つだけあげることにします。
まず一つ目に、昨年2月には、本学の入学试験の体制や大学における试験制度のあり方について考えさせられる出来事が起こりました。盛夏には、东京大学から秋入学についての问题提起もなされました。确かに、入学时期の変更も一つの重要な要素ではありますが、小学校、中学校、高等学校と大学との接続の问题、さらには大学と社会の接続を考えるときに、日本の人づくり、つまり「育人」システムの一环として大学はどうあるべきかを総体として考えるべきと思います。そのためには、ただ単に大学の中だけではなくて、全人的な教育、「育人」を社会がどうすべきかを真挚に议论していかなければならないことを世の中に强く発信していく必要があるとも感じています。それを进めるにあたっては、当然、入学时期?入试方法?入试科目の选定等を大学として考える必要がありますし、高校教育界との话し合いも非常に重要であると思っています。いずれにしろ、私は现状のように、限られた科目だけを勉强して、それで才能の全てをはかるということには限界があると思っています。
二つ目に、3月11日に発生した東日本大震災については、ただちに震災対策本部を設置し、被災した学生への支援、医学部附属病院の災害時派遣医療チームDMATの医師、看護師、事務職員の派遣、学内におけるエネルギー消費の削減協力依頼、学内における屋外放射線量の測定、東北復興支援 京都大学学生ボランティアの派遣、物資支援、卒業式?入学式時の義援金、口座振込みによる義援金の受付?被災者救援義援金の送付、福島県への放射線測定者の派遣、あるいは文部科学省への情報提供、地方自治体からの技術的な問い合わせへの対応などの協力?支援、被災大学等からの学生?教員等の受入れ、心のケア支援等様々な活動を行ってきました。
それらの活動に加え、復興に向けて、4月には学内緊急企画として熟議形式による「大規模自然災害対策?復興 全学大会議」を、5月には緊急公開シンポジウム「将来のエネルギーについて考えよう-安全?安心な社会をめざして-」を開催し、併せて8月には「こどもたちの心の復興支援」として福島の子どもたちを総合博物館に招待しました。また、京都大学シンポジウムシリーズ 「大震災後を考える-安全?安心な輝ける国づくりを目指して-」も合計19回を重ね、今なお継続開催中です。これらの支援は今後も途切れることなく行っていく必要があると考えています。
叁つ目に、知的财产について述べたいと思います。山中伸弥教授の研究グループが世界で初めて树立した颈笔厂细胞に関する特许については、国内では既に3件成立していましたが、海外では11月に2件目が成立した米国に加えて、欧州、南アフリカ、ユーラシア、シンガポール、ニュージーランド、イスラエル、メキシコ、香港で成立しました。知的财产や特许料収入については、颈笔厂细胞研究関係だけでなく、本学の研究者や产学连携本部の努力が実り、全分野の特许収入は1亿5000万円を超え、法人化直后に比べると15倍以上の伸びを示しました。
四つ目に、一昨年11月より行っておりました百周年时计台记念馆周辺环境整备工事が5月に完了し、时计台周辺が见违えるほど美しくなりました。これからも、安全で安心して勉学に勤しめるキャンパス、研究者が静寂な环境で深い思索を巡らし、独创性の高い研究が行えるキャンパスの実现に一层力を注ぎたいと思います。
五つ目に、11月末に公表された文部科学省の「博士课程教育リーディングプログラム」事业に、オールラウンド型「京都大学大学院思修馆」および复合领域型(安全安心)「グローバル生存学大学院连携プログラム」2件のプログラムが採択されました。本学はこれまで次世代を担う先见的な研究者を育成するため、各部局の様々な取り组みに加えて、优秀な若手研究者に自由な研究环境を与え、これを全学的に支援する仕组み、白眉プロジェクトを実施してきたところです。すでに白眉研究者から本学の医学部教授に抜擢された女性も现れました。このような若手研究者の先駆的な人材育成の仕组みに加えて、大学院教育改革プログラムについても「思修馆」という新しい取り组みを温め、今回それが採用されましたことは大変喜ばしいことだと思います。研究力に加え、俯瞰力と独创力を备え、広く产学官にわたりグローバルに活跃できるリーダーを「育人」するために、国内外の第一级の教员?学生を结集し、产?学?官の参画を得つつ、専门分野の枠を超えて世界に通用する学位プログラムを构筑?展开することにより、京都大学らしい魅力を一层高める大学院の形成を强力に推进できると确信しています。
最後の六つ目に、本学の対外発信力の強化が大いに進みました。渉外部を中心に本学の同窓会組織は強化され、海外の同窓会を含め83を数えるようになり、 東京オフィスの利用や関東地方での京都大学の発信も進みました。広報関係者の努力により、大学ホームページへのアクセス件数は昨年より7%伸び、1日平均24,000件となりました。この量は平成17年度の1日12,000件と比較して2倍となります。また、研究成果の発信件数も昨年1年間で50%も伸び、102件となり、その90%以上が新聞に掲載されました。また、近畿、北陸、四国、中国地方に配られた朝日新聞の「関西の大学力特集」の京都大学のページのみは東京版でも掲載され、本日発売の週刊現代においても巻頭11ページのカラーグラビアで京都大学が紹介されました。
続いて、今后の计画についてお话します。
言うまでもなく、昨年3月に発生した未曾有の東日本大震災からの復旧、復興をはじめ、我が国の未来開拓のチャレンジは始まっています。社会からの大学への要求も将来の日本や世界を担う人材の育成のためのグローバル化への対応や卒业生?修了生の質保証など、これまで以上に厳しいものとなってきています。危機的な財政状況の下、一昨年来言われてきた運営費交付金の減少や科学技術予算の削減に加え、人件費の削減などが今後予想され、そのような中で、世界の中の京都大学としてその輝きを維持することは並大抵の努力では難しい状況にあります。
しかし、易経の説明にあるように、困难の「困」は、「穷して通ず」を意味し、厳しい状况におかれることは必ずしも悪いことではありません。「穷して通ず」は「穷すれば変ず、変ずれば通ず」と解釈することもでき、困穷する时こそ必要な変革を断行し、変わることができれば、次なる飞跃につながると考えられます。资金润沢な状况においては、平等を基本とする均斉な投资による相似拡大的な成长が可能でしたが、予算削减の强化が予想される状况においては、大学がその质を保証しつつ、社会的使命を全うするためには、倾斜配分と选択と集中を考えた投资を通じた研究力?教育力の强化が必要不可欠となります。そのためには、
- 例外のない彻底的な节约と効率化
- 大学全体の戦略に基づく研究教育における重点分野の强化
- 各种活动に対する笔顿颁础サイクルの着実な実行
を避けて通ることはできないと确信しています。
本年、具体的には、
- 学生の施设、吉田南构内の寮、教职员の厚生施设の充実
- 教养教育を一层充実させるための组织の见直し
- 学部?大学院?研究所?センターの改组にかかる议论および教职员组织の改组にかかる议论の加速化
- 入试システムの検讨
に取り组みたいと决意を新たにしています。
また、そろそろ国立大学ではなく、「国立大学法人」として京都大学の形を整え、特别な法人である国立大学法人の利点を生かして、大学を适切に运営できるよう、向かうべき基本方向を一层明确にし、大学全体の运営に関する基本的枠组みを改め、それにあわせ诸规则を整理する时期に来ていると痛感しています。具体的には、国立大学法人法の趣旨は独立した法人格を与えたことがまず挙げられます。ところが我々は国の庇护のもとにある组织という意识がまだ强く、どこかで国が何とかしてくれると甘える部分があるのではないでしょうか。また、国は财政难を背景に、予算、组织等の规制は大幅に缩小する代わりに、大学の责任で自ら决定するように求めています。そして、意思决定に际しては、役员会を组织し、トップマネジメントを実现し、併せて経営协议会と教育研究评议会をおき、全学的観点から経営资源を最大限活用した运営を行うよう求めています。その上で、能力?业绩に応じた人事评価システムを大学の责任で导入することも认められています。私としては、国立大学法人法の趣旨を生かし、大学の强みを一层强化する方向で运営体制を整备すべきであると考えています。そして、社会の変化にしなやかに対応できる机动的な组织の下、本学の构成员すべてが持てる力を120%発挥すれば、京都大学はその辉きを一层増すことができるのではないかと思います。
最后に、京都大学のあるべき姿について所感を述べたいと思います。
世界トップ水準の研究成果を有し、世界最先端の研究を行うとともに、新たな研究领域を开拓する教员群による研究と教育が京都大学の本来あるべき姿であると思います。それにより、本学が期待される、豊かな教养と高い人间性を备え、世界で竞争できる优れた研究者や高度の専门能力を有する人材を育成することが可能となります。
このあるべき姿を実现するためには、教员には、追随者ではなく、开拓者として、世界のトップレベルの研究者を目指してほしいと思います。また、経験を积むにつれ、狭くなりがちな、先端研究に闭じこもるのではなく、広く深い见识を持ち、学术全体を俯瞰できる有识者となることを期待しています。同时に余裕をもって教育に当たってほしいと思います。教育においては、自分の教えた学生が、社会に出て一层の研钻を积み、20年后30年后の日本のリーダーとなるよう锻えることが求められています。そのためには、大学として教养教育を一层充実させるべく教育研究组织の见直しに着手する必要があると思います。
职员については、これまでは教员の研究?教育环境の整备に専心する、すなわち、教员のサポート机能に重点が置かれてきましたが、それに加え、大学の研究?教育以外の管理运営业务を自ら考え、効率をあげ、働きやすい职场环境を作る、あるいは魅力?活力?実力ある大学づくりに贡献する広范な企画力が强く求められています。
教职员と学生を含めた京都大学の构成员すべてには、自分自身が京都大学そのものであるという気概をぜひ持ってもらいたいと思います。「己が京都大学である」という意味は、日常の活动に际して、常に京都大学全体の中で各人の果たすべき役割について意识と意欲を持ってもらうということです。そして、最终的に自分自身がやらなければ、京都大学は前へ进まない、という気概を持った人がもっと増えてほしいと思います。そういう自覚を构成员すべてが持てば、组织は総体としてさらに强くなります。
一昨年には、本学の中长期的课题を视野に入れた未来戦略検讨を全学から选ばれた中坚?若手教职员に行っていただき、提言を受けたところです。その提言骨子はホームページで公开しています。昨年9月には、本学の机能强化プランをとりまとめ、部局长会议で了承を得たところです。くわえて、12月の部局长会议では「10年后の京都大学の発展を支える教育研究组织改革に向けて」の了承もいただいたところです。今后は、それらを参考にしながら、さらに大学を取り巻く社会情势を考虑して、魅力?活力?実力ある京都大学の実现にむけて大学运営に取り组んでいきたいと思います。
最后になりましたが、本日ご参集の皆様にとりまして、本年が佳い年になりますよう祈念して私の新年のお祝いの言叶といたします。
ありがとうございました。