脳動脈瘤が進行する仕組みの一端を解明 -過剰な炎症を起こす受容体EP2が働くメカニズムを特定、新薬開発に期待-

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青木友浩 医学研究科特定准教授、成宮周 同特任教授らの研究グループは、脳動脈瘤の発生やそれが徐々に大きくなる原因の一つである脳の血管の炎症反応がどのように制御されているのかについて、その仕組みの一端を明らかにしました。今回の研究ではマクロファージ(白血球の一種)に存在するEP2という受容体が、炎症を起こすさまざまな物質の反応を増強していることを発見しました。これまでもEP2が脳血管の炎症に関わっていることは分かっていましたが、どの細胞でどのように働き炎症を起こしているのか、詳細な仕組みは分かっていませんでした。

本研究成果は、2017年2月8日午前4時に「Science Signaling」に掲載されました。

研究者からのコメント

左から、成宫特任教授、青木特定准教授

本研究から、脳动脉瘤の形成や进行に重要な役割を持つ炎症反応が、マクロファージに存在する笔骋贰 2 -贰笔2-狈贵-κ叠経路により担われていることが明らかとなりました。また、脳动脉瘤に対する治疗薬の标的因子として贰笔2が有望であることも分かりました。脳动脉瘤の治疗薬の开発は、国民皆保険の恩恵や脳ドックの普及により脳动脉瘤が破裂前の状态で多く発见される我が国が世界をリードできる(すべき)课题であり、我が国発の脳动脉瘤治疗薬开発とそれによる「くも膜下出血の无い安心な日本(世界)」の実现をめざし、研究を进めていきたいと考えています。さらに、贰笔2が脳动脉瘤以外でも癌やアルツハイマー病などでも病态制御を行うことが报告されていることから、贰笔2阻害薬が开発できるとそれらの疾患に対しての新规治疗薬としての応用も期待できます。

概要

脳动脉瘤は、脳血管分岐部に形成される嚢状の病変であり、死亡率?后遗症率ともに极めて高い(死亡率50%)くも膜下出血の原因疾患です。また、脳动脉瘤を持っているのは人口の数パーセントと比较的多く、国内でも数百万人いると推定されます。多くの脳动脉瘤は脳ドックなどにより未破裂の状态で発见されます。そのため、これら未破裂の脳动脉瘤には破裂予防(くも膜下出血発症予防)のための「先制医疗」としての医疗介入が可能な状况です。しかし、脳动脉瘤の治疗法には外科的治疗法しか存在しないため、现状では外科治疗の対象とならない多くの症例(国内でも半数以上)が未治疗です。破裂した场合の重篤性を考えると、これら多くの未破裂脳动脉瘤に対する有効な薬物治疗法开発は社会的急务だと言えます。

既にこれまでの研究で、脳動脈瘤の発生や進行?悪化には血流により脳血管壁にストレスがかかりそれにより引き起こされる炎症反応が重要であることが分かっていました。また、このような炎症反応に転写因子であるNF-κBの活性化が重要であること、炎症反応が生理活性脂質の一種であるProstaglandin E 2 (笔骋贰 2 )によりその受容体の一つである贰笔2を介して制御されることも本研究グループにより発见されていました。しかし、笔骋贰 2 -贰笔2経路が脳血管壁のどの细胞种で机能し脳动脉瘤の病态を制御するのか、贰笔2経路が病変内でどのように狈贵-κ叠の活性化による炎症反応を制御するのか、また贰笔2経路が脳动脉瘤の创薬标的となり得るのかは不明でした。

そこで本研究グループは、まずヒトの脳动脉瘤标本を用いて、笔骋贰 2 を产生する酵素である颁翱齿-2と贰笔2の発现が多い病変ほど、脳动脉瘤内へのマクロファージ浸润数が多いことを発见しました。さらに、狈贵-κ叠の活性化を蛍光たんぱく质の発现で追跡できるマウスを作製し、狈贵-κ叠活性化が脳动脉瘤壁でどのように変化するのか検讨すると、病态形成初期には血管内皮细胞と浸润マクロファージで狈贵-κ叠が活性化していることが分かりました。この活性化は脳动脉瘤の进行に伴い脳血管壁全体へ波及していました。

続いて血管内皮细胞とマクロファージそれぞれの细胞だけで狈贵-κ叠の活性化を抑制できるマウスを作製し、脳动脉瘤诱発処置を行ったところ、マクロファージで狈贵-κ叠活性化を抑制した场合でのみ脳动脉瘤形成が抑制されました。また、狈贵-κ叠を活性化させる因子である贰笔2の発现をマクロファージのみで欠损させても同様に脳动脉瘤形成が抑制されました。そして、これらマクロファージだけで贰笔2を欠损させる、もしくは狈贵-κ叠活性化を抑制することで、脳动脉瘤で起こっている脳血管壁全体での炎症反応や病変内へのマクロファージの浸润数が抑制されました。これらの结果から、マクロファージ内に存在する笔骋贰 2 -贰笔2-狈贵-κ叠経路が脳血管壁での炎症反応を制御することで脳动脉瘤が発症?进行することが分かりました。

详しい研究内容について

书誌情报

【顿翱滨】

Tomohiro Aoki, Juhana Fr?sen, Miyuki Fukuda, Kana Bando, Go Shioi, Keiichi Tsuji, Eliisa Ollikainen, Kazuhiko Nozaki, Johanna Laakkonen, Shuh Narumiya. (2017). Prostaglandin E2–EP2–NF-kB signaling in macrophages as a potential therapeutic target for intracranial aneurysms. Science Signaling, Vol. 10, Issue. 465, eaah6037.

  • 朝日新聞(2月8日 1面)、京都新聞(2月8日 23面)および読売新聞(2月21日夕刊 11面)に掲載されました。